みなさんこんにちは。理科の下村です。「誰このおじさん?」って人もいるかもしれないけれど、授業動画で顔は見たことあるかな? 今回はみんなにチンパンジーのお話をします。
京都大学に、モンキーセンターという日夜サルのことを研究している場所があるのを知っていますか? 私が子どものころ、そこにいる「アイちゃん」という天才的なチンパンジーのことをテレビでやっていて、すごーく感動したのを覚えています。
まず、彼女はものの数を認識し、それを人間に知らせることができます。どうやって知らせるのかというと、彼女はなんと「数字」というものを知っているのです。たとえばリンゴが2個あったとすると、アイちゃんは「2」のボタンを押します。つまり、“「」という「もの」をあらわす「記号」が「2」だってわかっている”ということだね。これはすごい!
リンゴっていっても、松森先生のことじゃないよ! でもきっとアイちゃんは、松森先生のことも見分けられる。「」だったら「2」を押すことができる(あれ? これだと松森先生がふたりいることになる? ま、いっか!笑)。アイちゃんは、人やチンパンジーの顔を覚え、見分けて、その名前を示すこともできるんだ。でもまだまだそんなものじゃない。なんと、「トークン」という、お金のかわりになるものを使って、自動販売機で好きなものを買うということもできるそうだ。お腹のすいていないときにはトークンを貯めておいて、いざってときに使うようにしていたりするんだよね。すごいね!
でもちょっと待ってください。これってチンパンジーがやるとすごいけど、人だったらものすごく当たり前のこと。数を認識するのも、顔を見分けるのも、普通のこと。
「君! お父さんとお母さんを見分けられてすごいねー!!!」なんてほめられたら、「バカにされてる?」って思うよね。まぁ、貯金ができるのはすごいかもしれないけどね(下村はお小遣いすぐ使っちゃうので……)
生物学的には、チンパンジーとヒトはとてもとても近い関係にあります。でも違う。アイちゃんがどれだけすごくても、みなさんと同じような勉強はできるようにならない。なぜだろう? どうしてこんなに違うんだろう?
ヒトとその他の動物の大きな違いのひとつは、実は「子どもの期間」だと言われています。ヒトが生まれてから歩くことができるようになるまで、個体差はありますがだいたい1年ほどです。これがたとえば草食動物だと、生まれてすぐに立ち、歩く。ヒトにだいぶ近いチンパンジーは生まれてすぐには歩かないけれど、でも半年もしないうちに歩く。それができなければ敵に襲われてしまうからです。ヒトの子どもは守られているのでその必要がなく、ゆっくり時間をかけて身体的能力を成長させます。そしてヒトという種族が長い長い時間をかけて進化する間に蓄えてきた知識を、学習というかたちで自分という個体の脳に入れ込んでいく。「子どもの期間」に、この先の人生(いきものとしての寿命)を可能な限りつよく生きていくために、身体も脳も成長させ、鍛えていっているということですね。チンパンジーの社会にも同じように学習の習慣はあるけれど、蓄えてきた知識の量はヒトほどには多くないので、脳の鍛え方も違う。だからアイちゃんは、きみたちと同じようにはなれない。
子どものころの脳の成長というのはとても大事。大人になってもヒトとして学んでいくことはできるし、知識を増やしていくこともできる。でも実は「脳そのもの」は、子どものときにできあがってしまいます。大人になったら、余力をうまーく利用して学習していくだけ、なのです。でもこれがうまーく利用できるかどうかも、実は子どものときの鍛え方次第。
みなさんはいま、きちんと脳を成長させていますか? 鍛え方次第ですよ! この大事な期間を有意義に使っていますか? 家の人からの「宿題やったの?」という問いかけに対して、「つかれたー」「いまやだ」「めんどくさ~い」とか言ってサボってることないかな?
ということで、今月は下村から、「たまには息抜きもいいけれど、あんまり勉強しないとチンパンジーになっちゃうかもよ~!」というお話でした。